数学基礎論三つの神話
ゲーデルは,1930年には,ヒルべルトの有限の立場の証明がラッセルのプリンキピアで必ず形式化できるということに確信をもっていなかった.
しかし,遅くとも1933年までには,その意見は大きくかわり,ヒルベルト計画は不可能であると確信するようになる(全集III1933o).
また,第1,2不完全性定理によりヒルベルト計画の認識論的な意味はほとんどなくなってしまった,という意見を表明するようになる(全集III1933o,1938a).
しかし,哲学的な意味を離れると,より明瞭なものに数学を還元するということは,それ自体が数学的に非常に重要な問題であるとし,ゲンツェンの無矛盾性証明を,そのような仕事として評価する.(全集III,1938a)
注意しないといけないのは,ゲーデルは自分の定理により,無矛盾性証明の不可能性が厳密に証明できたとは決して言っていないことです.
ゲーデルは,終生一貫して自分は数学の体系はそれ自身の無矛盾性を証明できないことを厳密に証明したが,それが即,有限の立場で無矛盾性が証明できないということの厳密な証明であるとは言えない,という立場を貫きます.
有名なゲーデルの高階原始汎関数による算術の無矛盾性証明の論文の1972年版では,
“しかしながら,この驚くべき事実(ヒルベルト計画の不可能性)はゲンツェンによって数論の無矛盾性証明に使われたε。までの帰納法を検討することにより,非常に明確となっている"と続けています.
それに続いて,ε。までの帰納法が“直接的に明らか"とは言えないことを議論し,その事実が逆に数論の無矛盾性証明がすでに有限の立場を越えていることを示すのだと結論します.
そして,そのために自分は高階原始汎関数という抽象概念を導入することにより有限の立場を拡張して無矛盾性を示すのだと続けるのです.
そして,それによってヒルベルトの意味での無矛盾性証明の不可能性が明らかになったとするのです.今でもゲンツェンの方法の拡張は研究されており,ごく最近革命的な進歩が達成されつつあるようです.
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